「蓮様───」
玄関を入ると、出迎えのメイドの他に、もう一人のメイドが小走りで駆け寄ってきた。
「お帰りをお待ちしておりました。」
周囲を気にしながらも、その表情からは焦る様子が窺える。
「何かあった？」
「実は、御前が････」

まさか、なんて思っていた自分の読みの甘さにほぞを噛んだ。
「柊一を連れて行った？」
「申し訳ございません、お止めする事が出来ませんで。」
もとより彼女に止める力など無いのは分かっている。御前のご執心を見誤ったのは俺だ。
「で、いつ？」
「はい、２時少し前でした。」
俺が出掛けたすぐ後。どうやら楽しむ時間はたっぷりあったようだ。
元気すぎるご老体というのは、ホント手に負えないね。
問題は何処に連れ込んだかだが。自分の寝室か、それとも････。
「あの･･･」
「ん？」
「庭師が『今日は午後の温室の手入れを控えるよう言われた』と。」
「そう･･･ありがと。」
だから頭の良い子は好きさ。
彼女を下がらせると、長船に柊一の衣類を頼んで、自分は温室へと向かう。

中庭に出るドアの手前で、男が待ち受けていた。
御前付きの世話係の一人だ。
「お帰りなさいませ。御前よりのお言伝がございます。」
「何？」
毎度の事ながら、慇懃無礼な物言いが気に障る男だ。
「『久し振りに楽しめた』と。いたくご満足なご様子でございました。」
「そ、良かったね。」
素っ気なく聞き流して通り過ぎる。
「お待ちを。」
「まだ、あるの？」
「鍵がご入り用では。」
恭しく差し出す温室の鍵を引ったくるように受け取り、中庭に出た。

鍵を開けて硝子の館の中に入った。
二重の扉の内側は、噎せ返るような花の香りに溢れている。その甘く温い空気を掻き分け奥まで進んだ。
ちょっとしたティパーティが出来るよう、テーブルセットや長椅子が設えられているスペース。
推測した通り、彼は其処にいた。
ささやかな抵抗の名残か、高価なバラや極彩色のランが見るも哀れな有様だ。
その千切られた花弁が床一面に散らばる中。
長椅子に横たわる肢体は一糸も纏わず白い肌を無防備に曝したまま。

傍らに跪いて状態を確かめた。
声をかけても答えは無い。
やや浅い呼吸とまだ火照りを残した肌の熱で、使われた薬の種類と強さが容易に知れた。
その肌に付けられた赤い痕に軽く触れただけで、びくりと身体が反応する。
「困ったコだね、君は。」
穢された姿でさえもこんなに美しいだなんて。

「蓮さん、これを。」
長船が持ってきた新しいローブを受け取った。
柊一の身体を包んで抱き上げようと、首の後ろに腕を回す。
「･･は････ぁ･ッん･･･」
仰け反った喉が震え、熱い吐息が漏れた。
そして意識の無いまま、腕に頭を擦り寄せてくる。
「蓮さん･･･？」
「え？」
長船の怪訝な顔で気付いた。自分が笑っていた事に。
「まったく。困ったコだよ、ねぇ。」

そう、今回だけは許してあげるけど。
もう二度と、こんな可愛い声を他のヤツに聞かせたら許さないよ。

君も。

相手の人間もね。




北見先生拉致監禁ネタｖ
良い機会なので、いろいろと捏造させて頂きましたよ。
四宮邸のバラの温室とか（苦笑）

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