ドラマ版小ネタ・その３   外は雨らしい。 静かな雨音が耳に心地良くて、長いすに腰掛けたまましばらくそれをぼぉっと聞いていた。 「よく降るな」 声と共に、プラカップに入ったコーヒーが目の前に降りてきた。 「ぁ･･･どぉも」 岩永が遠慮気味に受け取ると、北見は静かに隣に座った。 「大丈夫か」 手術中に倒れた、なんて“前科”はそう簡単に忘れて貰えそうにないらしい。 岩永は苦笑してカップを揺らした。 「も、だぁいじょうぶです」 「乃木はどうしてる」 「変わりませんよ、前とおんなじ」 あぁ、周りが思ってるよりずっと、この人は細やかで心配性なのだと思う――ただちょっと不器用なだけで。 「焦っとったんでしょ。生真面目なヤツだがら」 日々目の前の状況を乗り越える事に精一杯で、振り返って反芻する余裕もない毎日。 ともすれば自分を磨り減らしていくばかりような感覚に陥る。 「みんな、どっか覚えがある」 この目まぐるしさに慣れてしまったら、いつか本当に患者さんを流れ作業のように扱ってしまうのではないか。 誰しもそんな不安を覚えて不思議じゃない。 「･･･そうだな。なんとかしなくては」 ＫＺ病院撤退から一月。状況は随分好転したが、未だ元通りとはいかない。 ＫＺ病院が無くなっても結局ヴァルハラに戻らなかった者達もいる。 「よろしく頼んますよ、次期院長」 岩永の言葉に揶揄の色は無かったが、北見はあからさまに表情を顰めた。 自分はまだそんな器じゃない――謙遜じゃなく本気でそう思ってるのだから、難儀な人だ。 「うるさい。だいたいお前は言う事が年寄り臭いぞ。そんな事だから俺と同年代に見られるんだ。」 「ひっどいなぁ。そんなん言うたら北見センセが若く見られ過ぎ。そんな髪してっがら」 「こっ･･これは････切りに行く暇が無いだけだっ･･」 表向きそういう事になっているが、実は他に隠れた理由がある事を知る者は少ない。 ぷいと顔を背けた北見を見て、岩永は笑いを隠すようにコーヒーを啜った。