倒れた、と聞いた。
自分を含め多くの医師、スタッフ達がヴァルハラを見捨てて出て行ったちょうどその頃のこと。
不調を隠して、誰にも黙って頑張り続けて、手術中に倒れたと。
その話を後で聞いて、信じられなかった。
少なくとも自分が知るこの先輩は、いつも飄々としてマイペース。
東北訛りの喋り方の所為もあるだろうけど、普段ののんびりとしたイメージからは、そこまで自分の身を削るような無理をするなんて想像もできなかった。
しかも彼をそこまで追い込んだ一因が間違いなく自分にもあったのだ。
暫くはそれを思うと居たたまれず身の置き場がない思いばかりが空回り。
虫のいい話だが、余計な事を考える余裕もない忙しい毎日が、この時ばかりはありがたかった。
そして気兼ねを見せず話せるようになったのは漸くつい最近になって。
なのに――気付いてる筈の向こうは変わらずいつものマイペース。

「ぅお〜い、なぁにやってんだぁ？乃木先生」
「あっ･･はい、いや･･･」
「皇さんからの差し入れの菓子配ってっぞ。早ぐ来ねぇと輝センセにぜ〜んぶ食われちまっから」
気が付くと廊下の角からひょいと顔を出した岩永が手招きしてる。