夕東風

休憩室のソファに深々と身を沈めて人心地付いてた筈なのに、この重圧感。
そりゃあ確かにここ数日ハードワークが続いてるけど。
この重さは疲れの所為じゃない。
「あの･･･重いんですけど、森先生。」
「ん～？そぉか～？」
肩口で響きの良い声が僕の抗議に答える―――というか、受け流す。
「そうかじゃなくて、どいて下さいよ～。」
いくら他に誰もいない休憩室でも、この状況はちょっと恥ずかしい。
第一、僕の休憩には全然なってないし。
でも、僕の肩に乗っかった顎がどく気配は全くない。それどころか･･･
「あ？いいだろう、さすがに今日は俺も疲れたぜ。」
大仰な溜息とともに大柄な身体ごと背中に凭れ掛かってきて、すっかり寛ぎモード。
気持ちは解りますよ、気持ちは。
未明に起きた多重衝突事故の所為で、今日一日、それこそついさっきまで病院中が臨戦態勢の状態だった。
内科が専門の森までもが軽傷者の対応に駆り出される程だ。
やっと緊張を緩める事が出来てほっとしてるのは僕も同じだもの。でもだからって･･･
「疲れてるのは僕も同じなんですから～。」
「あぁそっか。悪かった、悪かった。」
そう言って身体を起こしてくれて、安堵した僕が甘かった。
「んじゃ、こっちな。」
「え゛？」
軽くなった肩を掴んでくるりと回されると、正面に向いた膝にごろりと頭を乗せられた。
「ちょ･･ちょっと、これじゃ････」
ちっとも状況は変わってないんだけど、という僕の訴えは見事に無視され、あっという間に膝元から寝息が聞こえだす。
揺すって起こしてやろうかと思っても、こんなに無防備に寝入られると何だか無下に起こし辛い。

どうしものかと思案する僕をよそに、陽は少しずつ傾いていく。
昼間の暖かさに誘われて開け放っていた窓からは、オレンジ色の斜光と一緒にひんやりと夕暮れの気配が滑り込んで来た。
（風邪、引かないかな･･･）
「森先生、寒くないですか？」
起こそうか起こすまいか迷った末に小さく声を掛けてみるが、どうやらこの程度じゃ起きそうにない。
仕方なく上体だけ捻って背後にある棚に手を伸ばす。
仮眠用の毛布を引っ張り出すと、静かに上下する肩にふわりと掛けた。