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茶色の毛足がふわふわして 柔らかそうで、温かそうで 見ただけで分かった、自分とは正反対だと。 「ね、これ食べない？」 毛並みとよく似合ったふわふわした笑顔が大きな葉っぱの包みを差し出した。 「美味しいよ。一緒に食べよ。」 そう言うと、やまねずみは切り株のテーブルに包みを置いて開く。途端に 「わっ、わっ☆」 中からはドングリがころころ。慌てて落っこちないように押さえている。 「うん････ありがとう。」
はりねずみは遠慮がちに頷くと、黒い針を小さく揺らしながら隣に座った。 そうするとやまねずみがとても嬉しそうに笑うので、はりねずみはいつもどんな顔をしていいのか判らなくて困ってしまうのだけど。 ももんがに誘われてやってきたこの森は、それまで住んでいた山と全然違ってた。 夏は暑く冬は寒い自然の厳しさは変わらない。 でもここにはいろんな動物たちがいて、もともと住んでいた者もいれば、はりねずみと同じように余所からやってきた者もたくさんいる。 だから、ここでは色が黒いからとか余所からきたからと言ってはりねずみを苛める者は誰もいない。 とても素晴らしい、居心地のいい森────の筈なのに。 ふと気が付く、意識して探さないと居場所を見つけられない自分。
それは長い間････針のしまい方も忘れてしまうくらい本当に長い間、独りぼっちでいた頃の癖が抜けないのか。それとも自分をここへ連れて来てくれたももんがのために、一緒にこの森を立派な森にしようといつも気を張っている所為なのか。 もっとみんなとうち解けたら、もっとももんがの役にも立てる気がするのに。
例えば････今、目の前にいる彼のように。 「どうしたの、もっと食べないの？」 やまねずみはどんぐりをぽりぽり囓りながら、手の止まったはりねずみの顔を覗き込んだ。 「今日はももんがさんいないの？」 「うん。今度は西の島まで行ってる。また新しい仲間を探してくるって。」 「ふ〜ん。じゃあ、淋しいね。」 「えっ････ど･どうして？」 何でもない振りをしたけど、狼狽えてるのはバレバレみたいだ。やまねずみはくすくす笑いを堪えてる。 「だって･･･いつも一緒にいるじゃない、ももんがさんと。」 そう、いつも一緒だった。 彼の役に立ちたいとか、この森のために何かしたいとか、いろんな理由を付けて。 だけど、本当はただ一緒にいたかっただけなんだ。 留守を任されたのは嬉しかったけど、出来れば一緒に付いて行きたかった。彼の傍以外、居場所なんて考えられなかった。 こんなことで、みんなとうち解けるなんて･･････無理に決まってる。 それに比べて、やまねずみは自分より後にこの森へやって来たのに、すぐにこの森の住人達と仲良くなったように思う。
だって、ほら─── 「あーっ何食べてるの？いいなぁ、僕にもちょうだい。」 不意に、縞模様の小さな背中が転がるようにやまねずみの脇にすり寄ってきた。 甘えてくる鼻面に苦笑して、やまねずみは答えた。 「分かったよ、うり坊クン。ちゃんと分けてあげるから。」 ねっ、と笑顔を向けられてはしゃぐうり坊の様子を、はりねずみは縁遠く感じながら見ていた。 やまねずみと居ると、時々こんな光景を目にする。 そういえばこのあいだは、黒熊に捕まって舐め回されてたっけ。 白樺の木から降りてきたばかりで、毛皮に甘い樹液がくっついていたとか。結局きれいに舐め取られるまで放して貰えず、すっかり困り切っていた。 「僕ってからかい易いみたい。」 そう言って頻りに恥ずかしそうだった。 分けて貰ったどんぐりをあっという間に食べてしまったうり坊は、物足りなさそうにやまねずみを見上げる。 「もっと食べたいなぁ。ねぇねぇ、一緒に拾いに行かない？」 「そうだね。いいよ、行こうか。」 にっこり笑うと、はりねずみを振り返った。 「はりねずみさんも行こうよ。」 「僕は････いいや。君達で行っておいでよ。」 やまねずみがなにくれと無く自分を気に掛けてくれている事を判ってはいた。 それでもやっぱり素直になれない。 彼が居ないと･･････。 「淋しいんだね。」 「そっ、そんなことないよ。平気だよ。」 僅かに立った背中の針に虚勢が読みとれた。 「どうして？はりねずみさんは独りが好き？」 「･･････」 「ホントに？ホントのホントに？」 真剣な目で真っ直ぐ見つめられて、嘘は言えなかった。 小さく、でもはっきりと首を横に振った。 以前は独りぼっちなんか平気だと思ってた。
でも、自分を暖めてくれたあの手の温もりを知ってからは、独りで居たいなどと思った事はない。 「じゃあ、この森は好き？」 「････うん。」 「ももんがさんのことも好き？」 少し頬を染めた顔でこくりと頷いた。 「僕達のことは好き？」 「･･････よく分からない。」 「良かった。」 「え？」 「だって、嫌いじゃないんだよね。」 満面の笑みが戻る。 「じゃあ、好きになってみて。」 それは、いつもの本当に嬉しそうな笑顔で。 ついそっぽを向きながらも、はりねずみは「うん」と答えてしまった。 ふと気付くと、何かが背中の針を触ってる。
いつの間にか背後に回ったうり坊が、そぉっと針を撫でていた。 はりねずみが振り向くと手を引っ込めて、照れ臭そうに「えへへっ」と笑う。 「あのね････僕ねっ、はりねずみさんの針に触ってみたかったんだ。」 続く無邪気な言葉は、はりねずみには信じられないものだった。 「だって、黒くてきれいで、カッコいいんだもん。」 きれい？僕の針が････？
近付く者を追い払う為にしか使ってこなかったのに。 意地っ張りだった自分の象徴のようなこれが？ 戸惑いの視線を向けるはりねずみを、うり坊は不思議そうに見ていたが
「ねぇ、もういい？早くどんぐり拾いに行こっ！！」 痺れを切らして背中の縞模様をふるふるっと揺らす。 「うん、行こう。はりねずみさんも一緒にね。」 繋いできたやまねずみの手は、あの時の彼と同じように温かく感じられた。 「でも････」 「ん？何？」 元気良く斜面を駈け降り、と言うよりも転がり降りて手招きするうり坊を見下ろして、はりねずみが呟く。 「あんなに嬉しそうなのは、よっぽど君のこと好きなんだね。」 はりねずみの言葉に、やまねずみは一瞬きょとんとして、そして笑い返した。 「それは君のことも好きだからだよ。」 「えっ？」 驚く顔をふわふわの笑みが包む。 「知らなかったの？僕達みんな、君のこと大好きだよ。」
ぅわ〜ごめんなさ〜い。ネコ耳どころの話ぢゃありませんねコレ。 |