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◇◆百合（びゃくごう）◆◇
――コホン･･
小さく咳をしたら、寝間の静けさが身に沁みた。 熱は下がっても、この咳ではまだ笛は吹けない。 一方、炊き処では騒々しい物音が続いていた。 市でいい物を見付けた、と言って、帰って来てからずっと炊き処に籠もり何やら格闘中だった。 それが止んだかと思うと、やがて足音が近付いてきた。 「具合はどうだ」 御簾から覗いた顔が、どこか得意気だ。 「そら、夕餉だ。これ食べて今夜はゆっくり休め」 「あなたが作ったんですか」 僕の言葉が少し不満だったようだ。 「俺だってこのくらいは出来る」 座ると、早く食べろとばかりにお椀が載った盆を枕元に置いた。 起きてお椀の中を見ると、葱を散らしたお粥だ。 他に何が入ってるのか分からないけど、滅多に炊き処に立つことのない彼がせっかく作ってくれたものだし。 そう思って手を合わせて、箸と椀を持った。 ･･･ん？ 箸先の微妙な違和感に、不安が湧く。 「これ･･･百合根、ですか？」 「あぁ、咳に効くらしいからな」 僕が躊躇ってるとまた、早く食べろと促す。 「ありがとうございます････でも･･」 僕は言おうか言うまいか迷った末、ごろんとした白い塊を箸でほぐしながら、遠慮気味に言った。 |