新年の祈り

悴む手で戸板を開けた途端、ほの明るい黎明の光と共に澄んだ冷気が入り込んできた。
「あぁ･･･冷えると思ったら、やっぱり････」
夜半にひとひら舞ったような気がした雪は、夜通し降り続いたらしい。
庭石も榊の濃い緑もうっすらと白く化粧して、新しい年の始めに相応しい装いを見せている。
「綺麗に積もったな。」
声に振り返ると、まだ少し眠そうな顔の彼が僕の横に立った。
白い息を吐く横顔をひらりと風花が掠め、黒絹に纏い付く。
「この分だと、今夜の奉納舞はもっと冷えそうですね。風邪引かないで下さい。」
「あぁ、お前もな。」
彼の髪に懐いた雪粒を払いながら言うと、答える彼はもう今夜の舞台を思ってか、子供のように楽しそうに笑う。
いつも酒宴で舞う彼は、杯片手に値踏みする殿上人達に挑むかのような気を纏って彼らを圧倒するけれど。
だけど、今夜はきっと優しい舞を見せてくれる筈だ。
彼の本質である慈しむような優しい舞。
だって今宵の舞は、神々の為、民草の為、天地(あめつち)の間にある全ての生命の為に捧げられるのだから。