最初は、優しい人なんだなと思った。

やがて内に秘めた厳しさが垣間見えるようになった。
ファインダーを覗く時、シャッターチャンスを計る時、決して己に妥協を許さない眼差し。
そして人間に向ける辛辣な･･･。
自分に対してはいつも優しく穏やかな態度で接してくれていたから、すぐには気付かなかった。
「人間は撮る気にならなくてね････」
ぽつりと呟いた彼の孤独を、俺はただ想像するしかなかった。

そんな彼が何故、自分にだけはあんな穏やかな表情を見せてくれたのか。
あんなに親しく語りかけてくれたのか。

訊く事が出来ないまま、機会は永遠に失われ―――
残された１枚のパネルと共に、褪せない思い出だけがこの手に残された。

形ある物など要らないから。
どうしてこの手に、生命は留まってくれないのだろうか。
それだけが願いなのに。

力が欲しい。
生命を繋ぎ止める力が。
技術だけじゃ足りないというのなら。

大それた望みの代償は覚悟している。
後悔も無い。
ただ････
あの雪嶺が似合うと言ってくれた彼の言葉が、日々遠退いていく。

変わらない頂の雪の白さに、きっともう二度と触れる事は無い。



《 ｂａｃｋ 》